2024年1月号掲載
この一冊でわかる世界経済の新常識2024
概要
様々なリスクを抱え、先が見えにくい今日の世界経済。2024年はどんな局面を迎えるのか、大和総研のエコノミストたちが見通す。米国は堅調な景気を維持できるのか、EU各国の財政は大丈夫か、日本の景気は今後どうなるのか…。ビジネスパーソンが知っておきたい世界経済の行方を多面的に展望し、1冊にまとめた。
要約
グローバルリスク
2024年の世界経済を見通すと、当面は緩やかな景気回復が想定される。しかし、様々なリスクが世界経済の不確実性を高めている。
長期化するウクライナ侵攻
想定されるグローバルリスクの1つが、2022年に始まったロシアによるウクライナ侵攻に代表される「地政学的リスク」だ。すでに激化している米中対立も絡んで、世界情勢を複雑化している。
侵攻当初より欧米の西側諸国はウクライナを支援してきたが、紛争が長期化する中、「支援疲れ」の兆しが散見される。例えば、米国では、野党共和党から、無条件での支援を疑問視する声が上がっており、今後、巨額な支援予算が成立しにくい状況になると予想される。
ウクライナ侵攻の長期化によって経済へのダメージが蓄積されていけば、他国でも同様の支援疲れは十分に起こると考えられる。
異常気象が世界を翻弄する
「異常気象」も、グローバルリスクの1つだ。近年、猛暑や大雨など極端な事象が増えている。
EUの気象情報機関によると、2023年6-9月の世界の平均気温は、同月としての観測史上最高記録を更新した。24年も異常気象が頻発し、23年を上回る暑さになる可能性がある。
欧州最大の経済大国であるドイツでは、水不足によって主要な物流網を担うライン川の水位が下がると、貨物船の運行に支障を来し、穀物から鉱物、石油製品など多くの輸送が滞る恐れがある。
また、ILO(国際労働機関)は、暑さへのストレスが企業の管理能力を低下させるなど、経済活動上の障害になっていると指摘する。そして、暑さへのストレスで蓄積された経済的損失は、30年には年2.4兆ドルに達すると試算している。
特に、屋外での作業時間が長い農業や建設業、運輸業、そして観光業などのサービス業への打撃が大きく、屋内の作業でも冷房設備が不十分な場合、生産性は低下する。農業の場合、農作物の収穫量が減り、一段と価格高騰を招く恐れがある。
米国経済
米国では、景気が底堅く推移する中でインフレは減速し、金融引き締めも終幕に近づきつつある。そのため、大幅な景気悪化を経ずにインフレも落ち着くという「ソフトランディング」に対する期待が市場でも高まっている。