2023年7月号掲載
科学と資本主義の未来 〈せめぎ合いの時代〉を超えて
著者紹介
概要
“限りない成長”と“持続可能性”。今、私たちの社会は、両者の間で揺れている。これから進むべきは、どちらの道か? 著者の答えは、後者だ。そして、科学と資本主義は“車の両輪”のような形で歩んできたとし、その過去・現在・未来を俯瞰。目指すべき、環境・福祉・経済が調和した、「持続可能な福祉社会」の像を示す。
要約
科学と資本主義
現在という時代は、2つのベクトルの“せめぎ合い”の時代としてとらえることができる。
第1のベクトルは「スーパー資本主義」「スーパー情報化」と呼べるような方向である。それはGAFAやデジタル・トランスフォーメーションといった言辞に示されるように、すべてがデジタル化されて効率化が進み、スピードと利潤をめぐる競争が極限まで展開し、格差の拡大と気候変動などの危機が加速していくような方向だ。
第2のベクトルは「ポスト資本主義」「ポスト情報化」と呼びうるような方向である。それは人々が地球環境の有限性に関心を向けるとともに、「限りない拡大・成長」よりも「持続可能性」に軸足を置いた経済社会のありようを志向し、併せて分配の公正や相互扶助的な価値、ひいては幸福や豊かさの意味を再考するような動きだ。
こうした“せめぎ合い”がいかなる帰趨をたどるかという点において本質的な意味をもつのは、「科学」がどのような形で展開していくかという点だ。なぜなら、私たちが今日、科学と呼ぶ営みは、資本主義というシステムと“車の両輪”のような形で展開してきたからである。
科学と資本主義をめぐる5つのステップ
科学と資本主義をめぐる歴史的展開は、5つのステップにまとめられる。
最初のステップは、17世紀における「科学革命」と資本主義の本格的始動の時代である。
私たちが現在「科学」と呼んでいるものは、実質的に西欧近代科学を指す。そうした近代科学が科学革命を通じてヨーロッパで勃興するとともに、それと並行する形で資本主義が本格的に始動し、これらを通じて“ヨーロッパの世界制覇”が展開していったのがこの時代だった。やがて18世紀後半に産業革命が起こり、科学と技術、ないしテクノロジーの結びつきが強固なものとなっていく。
こうして科学と資本主義をめぐる進化の第2ステップが始動する。
とりわけ19世紀以降の重工業を中心とする“第二次産業革命”では、科学研究が技術革新のベースとして重要な役割を果たす。熱現象や電磁気などの研究が進む中で「エネルギー」というコンセプトが作られ、その研究が電力や石油の大量消費をベースとする工業化社会を先導していった。
同時に時代は資本主義の全面展開の様相を呈し、欧州各国が植民地や資源をめぐって壮絶な戦いを始める中で、産業や軍事技術の開発という点からも、各国は科学研究の振興を本格化する。
ケインズ政策と「科学国家」
第3ステップは、20世紀の半ば以降、特に第二次大戦後から1970年頃にかけての時代である。