2023年11月号掲載
ディスカバリー・ドリブン戦略 かつてないほど不確実な世界で「成長を最大化」する方法
Original Title :SEEING AROUND CORNERS:How to Spot Inflection Points in Business Before They Happen (2019年刊)
著者紹介
概要
近年、世の中の不確実性が高まっている。科学技術の変化、政治的な変化…。これらがもたらす競争環境の激変 ――“戦略転換点”において、リーダーにとって重要なもの。それは「仮説指向(ディスカバリー・ドリブン)計画法」だ。綿密な計画ではなく、機敏な仮説検証を通じた学びが、予測がつかない時代の勝利のカギだと、世界的な経営思想家は言う。
要約
「創造的破壊の音」が近づいている
数年前、インテル元CEOのアンディ・グローブは、著書『パラノイアだけが生き残る』の中で、「戦略転換点」のコンセプトを紹介した。
戦略転換点とは、「企業の生涯において基礎的要因が変化しつつあるタイミングのこと」だという。これは言わば、私たちの多くが迎える人生の転換点のようなものだ。
戦略転換点はビジネス環境における変化であり、何らかの活動要因が劇的にシフトせざるを得ない状況を指す。同時に、それまで当たり前だと思っていた前提に疑いの目が向けられる。
あなたの耳にきちんと聞こえているか
例えば、補聴器に関するビジネスでは、次のような転換点が生じた。
研究者によると、補聴器を使えば生活が快適になる可能性のある55~74歳の成人の80%が補聴器を持っていなかった。そもそも値段が高かった。
また、自分が年寄りに見えるのが嫌で補聴器を着けたがらない人も多い。見た目が不細工で、時には雑音まで出す従来の補聴器は、明らかに「おしゃれ」とはほど遠い。
しかし研究によると、聴覚障害は認知症の発症リスクを高め、さらに、社会からの孤立や転倒のリスクも高まるという。こうした問題を抱えながらも、1977年にアメリカ食品医薬品局(FDA)から医療器具と認定されて以来、補聴器ビジネスの基本モデルはほとんど変わっていなかった。
ところが、耳科専門医によって「インイヤー補聴器」(個人の耳に合わせて調整するタイプ)が販売され始めると、やがてその販売形態が一般的になる。同時に、市民からの苦情がきっかけとなって、これらの器具を「読書用めがね」(処方箋なしで販売できる矯正レンズ)のように、店頭で簡単に手に入れられる製品へと向かわせる動きが起き始めた。
これに対し、現行企業やアメリカ聴覚学会は、どんな音声増幅器もFDAの規制を受けるべきだと提唱した。だが2017年、それまで学会が死守してきた規制構造が、ついに解体されることになる。
補聴器業界の創造的破壊者
その結果、数多くの企業が、あくまでも「補聴器ではなく」、業界内で「パーソナル・サウンド・アンプリフィケーション・プロダクツ」と呼ばれる小型集音器を手がけるようになった。これらの製品はFDAの規制を受けず、店頭で誰でも気軽に購入可能だ。
専門家によれば、補聴器ビジネスは2023年までに90億ドルを超えるだろうともいわれている。これは、戦略転換点にある面白い側面の1つだ。かつては複雑で高価だった物が便利で低価格になると、需要が爆発的に増加することがよくある。