2007年4月号掲載
イノベーションの作法 リーダーに学ぶ革新の人間学
著者紹介
概要
画期的なヒット商品を生み出したり、革新的な事業を成功へと導くようなイノベーターたちに、共通する特質や能力とは何なのか? 本書では、成功事例の現場や開発リーダーを徹底取材。その成功の裏に隠れているイノベーターたちの「場づくりの力」「清濁あわせのむ政治力」といった能力などから、イノベーションを導き出すための秘訣を探る。
要約
イノベーターたちの姿
イノベーターに必要な能力や資質とは何か?
それは、次に示す事例のプロジェクトリーダーの考え方や行動に、典型的に表れている。
マツダ「ロードスター」
マツダのシンボル車種ロードスターは、1989年の生産開始から10年目の2000年、2人乗りオープンスポーツカーとして史上最多の生産台数53万1890台を達成。大ヒット車となったが、その開発は、誰もが反対する四面楚歌の中で始められた。
「ライトウェイトスポーツ」と呼ばれる小型軽量スポーツカーを作る —— このプロジェクトの話が社内に広まるにつれ、疑問視する声が拡大した。「なぜ、2人しか乗れないのか」「なぜ、安全性や雨漏りの懸念のあるオープンカーを開発するのか」「なぜ、FF(前輪駆動)全盛の時代に昔のFR(後輪駆動)に逆戻りするのか」…。
反対論はいずれも、ライトウェイトスポーツの持つ文化や市場での潜在的な力を理解できないがための反対だった。それを説得するには、あまりにも多くの時間がかかる。
そこで、開発主査の平井氏は、「“FR、乗員2名、幌つきオープンカー”の1つでも外せというならこのプロジェクトは解散だ」と開き直った。
この開き直りが、社内のノイズを打ち消す効果的な武器となった。そして、数々の困難を乗り越え、89年、ついに発売にこぎつけたのである。
サントリー「伊右衛門」
04年の発売と同時に大ヒットを飛ばした緑茶飲料・伊右衛門。この成功例の場合、新しい緑茶飲料のプランを立ち上げるよう命じられた開発リーダーの沖中氏は、まず、日本人のお茶に対する潜在的、根源的な意識を探った。
その上で、「日本のお茶の歴史と伝統を真摯に受け止めると、サントリーだけではお茶を語ることはできない」と、京都の名門製茶メーカー福寿園との提携による共同開発を決断した。
しかし、福寿園には「うちは事業ではなく家業です。そんなリスクの高い話には乗れまへん」と断られる。それでも諦めずに説得を続けた結果、福寿園側もその意志と技術力に納得した。
最大の壁はむしろ社内にあった。