2025年1月号掲載
この一冊でわかる世界経済の新常識2025
概要
2025年、世界の経済・社会はどうなるのか? 激しく流動する世界の行方を、大和総研のエコノミストたちが見通した。トランプ新政権下の米国、不動産不況や人口減少問題に直面する中国、緩やかな成長が見込まれるも下振れリスクに注意を要する日本…。ビジネスパーソンなら知っておきたい情報を広範に把握できる1冊だ。
要約
警戒すべきリスクとは?
今日、世界の経済・社会は激しく流動化している。その中で、今後に発生し得る選択肢や警戒すべきリスクとは何か。ビジネスの三大要素であるヒト・モノ・カネの観点から見てみると ――
ヒトの流動化:世論の分断
近年では、社会の様々な局面で多様性の確保が重要視されている。その一方で、国内外で世論の細分化が進み、一定の共通認識を前提とした議論をするのが難しい状況になっている。
世論の分断の進行は、人類が抱える様々な課題について、世界が協力しながら一体的に考えようとするグローバリズムへの不信を生んでいる。これまで地球規模の課題として議論されてきたものに対しても、国際協調体制が成立しにくくなっている。最近では、移民急増の問題や経済格差の拡大などを背景に、人権重視姿勢への疑問も高まり、排外主義が表舞台でも台頭しつつある。
モノ・サービスの流動化:供給制約が半ば常態に
コロナ禍によるサプライチェーンの物理的な分断はほぼ解消した一方で、地政学リスクの高まりが、サプライチェーンヘの圧力を再び高めている。
また、一部の重要物資や先端技術に関して、経済安全保障の観点からの方針や政策が、政府から打ち出されている。社会的な価値観を共有できる国や地域だけに拠点を置くフレンドショアリングなど、企業にとっての制約が相次ぎ加わっている。
このように制約条件が多い中、サプライチェーンの再編においては、従来のように、労働力が豊富かつ安価な場所で人を雇い集中的に生産することが難しくなった。その結果、企業は各地で、労働力不足に悩まされ続けている。
カネの流動化:カネ余りと金融・経済危機の芽
近年、世界は高インフレに悩まされた。これをもたらした要因の1つに大規模なカネ余りがある。
コロナ禍の発生に対して、各国の中央銀行は国債の買い入れをはじめとする大規模な資金供給で対応した。この資金供給の過程で積み上がった前例のない規模の資金は、その後の経済の正常化に伴い、縮小しつつある。ただし、主要な中央銀行の保有資産の推移を見ると、資産残高の水準はコロナ禍前の2019年と比べてまだかなり大きい。
カネ余りの解消の遅れは新たなインフレの芽ともなりかねない。ようやく収束しつつあるインフレを再加速させないためにも、中央銀行には、これまでの資金供給について秩序だった回収と資産規模縮小の継続が求められる。
米国経済
米国経済は、米連邦準備理事会(FRB)が金融引き締めを続けてきた中でも底堅く推移してきた。米国の実質GDP成長率は、2024年4-6月期に年率+3.0%と高い伸びとなり、2022年4-6月期以降、9四半期連続でプラス成長となった。