あらゆる分野において、大小さまざまな規模で、私たちの社会は、たとえ、結果がどうなろうとも「いますぐに欲しい」社会になりつつある。すなわち、「インパルス・ソサエティ(衝動に支配される社会)」となりつつあるのだ。
解説
アメリカのシアトル郊外に、「リスタート」というインターネット依存症リハビリ施設がある。入所しているのは、オンラインゲームにのめり込み、仕事も人間関係もめちゃくちゃになった人たちだ。
ゲーム会社はプレーヤーに長くゲームをやらせたいと考える。長くゲームをするほど、おカネを払ってでも強くなろう、アップグレードしようとする可能性が高まるからだ。そこで会社は、ゲームをより「没頭できる」ものにする。その結果、人々はゲームの魔力にさらにはまり込んでいく。
彼らを動かしているのは、売上拡大を狙うゲーム会社と、プレーヤーの飽くなき自己表現欲求だ。
こんな話は、一般の人には無関係に思えるかもしれない。しかし実は、彼らの根幹にある問題は誰もが直面するものだ。つまり、「消費者が欲しがるものを与えることに長けた社会経済システムとどう付き合っていくか」という問題である。
今日、消費経済のシステム全体が、個々人の願望を真ん中に据えるようになっている。薬や音楽で自分がなりたい気分になる、体もトレーニングや手術でカスタマイズする、SNSの投稿に「いいね!」と言ってもらえる友だちをつくる…。
このような「自らの願望を追う世界」が重大な問題を抱えていることは明らかだ。例えば近年、アメリカは住宅バブル崩壊で世界経済を沈ませかけたが、これも飽くなき満足感を追求した結果だった。