労働災害の発生確率に関する法則に、「ハインリッヒの法則」というものがあります。
これは、1941年にアメリカの損害保険会社に勤める安全技師、H・W・ハインリッヒが、事故や災害について調査した結果確立した法則で、1件の重大災害の裏には29件のかすり傷程度の軽微な災害があって、さらにその後ろには、ヒヤリとしたりハッとして冷や汗が流れるような事例が300件潜んでいるというものです。
そして、たとえ少しでもヒヤリとした経験をした時、同じ背景(職場、労働環境など)には重大災害につながるような要因があるのだということを認識し、十分な対策を立てれば重大災害が未然に防げるという考え方です。
解説
「失敗学」の提唱者である畑村洋太郎氏は、失敗についても、ハインリッヒの法則と同じようなことがいえると指摘する。
ある組織で、新聞沙汰になるような大きな失敗があったとすると、その背後には必ず、顧客からのクレームなど軽度の失敗が29件は存在する。
そして、さらにその後ろには、失敗という形にはならなくても、従業員が「ヒヤリ」としたような体験が300件ある。
よく、重大な事故が起こると、当事者は「まさか、こんなことが起こるとは思わなかった」などと、それが“不慮の事故”“避けられない災難”であるかのような言い訳をする。
だが、重大事故の前には何かしらの“予兆”が必ずあったはずで、それに気づいた時に適切な対応をしていれば、重大事故を未然に防ぐことは十分可能だったのだ。
従って、組織内で日頃起きている1つ1つの失敗を、それがたとえ小さなものでも無視せず、1つ1つ解決していくことが大切だ。この真摯な姿勢だけが、致命的な失敗を防ぐのである。