2018年8月号掲載
戦略インサイト 新しい市場を切り拓く最強のマーケティング
著者紹介
概要
「インサイト」とは、人々の潜在的なニーズのこと。ヒット商品の裏には、これに基づくマーケティング戦略があるという。例えば、パナソニックの電動歯ブラシ「ポケットドルツ」は、女性の心理を掘り下げて成功した。そんな「インサイト起点のマーケティング」の第一人者が、この手法の概要、具体的な取り組み方を語る。
要約
「インサイト起点」が成功のカギ
本書タイトルの「インサイト」とは、人々の潜在的なニーズのことである。
この潜在ニーズをとらえ、新たな市場を創造することが価格競争に陥らずに成功するカギとなる。
消費者インサイトをとらえて成功した「ポケットドルツ」
消費者に潜在しているニーズで、企業がマーケティング活動に活かせるものを、「消費者インサイト」という。これをとらえて成功したのが、パナソニックが2010年に発売した携帯用の電動歯ブラシ、「ポケットドルツ」だ。
当時、各メーカーは振動数の多さや歯垢除去率の高さなど、その性能の良さを競っていたが、電動歯ブラシ市場は横ばいが続いていた。また、ユーザーは主に中高年男性で、使用場所は主に自宅。女性や若年層は電動歯ブラシを使わなかった。
そんな状況の中、パナソニックの担当チームは若い女性がランチ後に歯を磨くことに着目した。もし、彼女らが電動歯ブラシを使ってくれたら、市場を拡大できるのではないか。そう考え、消費者インサイトを掘り下げていった。
女性は、なぜ電動歯ブラシを使わないのか?
まず、同チームは「ランチ後に歯磨きをしている、働く女性」の心理を探ることにした。
彼女らは手磨きしているのに、なぜ電動歯ブラシを使わないのか? 理由を聞くと、サイズや音が大きいという機能的な問題の他、「今の電動歯ブラシは、おじさん臭くて、使うのが恥ずかしい」といった心理的な抵抗感があることもわかった。
一方、化粧品は人前でも堂々と使えるし、「それ、いいね」と話題にもなる。女性に化粧室で電動歯ブラシを使ってもらうには、化粧品のような「見え方」が大事だといえる。
さらに、このチームは、化粧室で使うものは、「化粧ポーチ」に入れることにも着目。100人くらいの女性社員の化粧ポーチを調査した結果、「マスカラ」サイズの大きさなら、まだ1本入るスペースがあることを発見した。
そして、働く女性がオフィスでランチ後に使う「マスカラのような、電動歯ブラシ」というコンセプトの、ポケットドルツを開発した。これは、マスカラのようにサイズを小さくするだけでなく、マスカラのような質感のカラーリングにした。
こうしてポケットドルツは「女性用のオフィス使用」という新市場の創造に成功した。2009年度まで220万本前後だった電動歯ブラシ市場を、2010年度には400万本にまで拡大したのだ。