もしニューヨークで2、3時間ひまな時間ができたら、イースト川沿いの東34番街の外れから出ている遊覧ヘリコプターに乗るといいでしょう。湾内に誇らかに立つ、あの気高く麗しい自由の女神にいよいよ近づいたら、注意してよく見てください。(中略)女神の頭のてっぺんを見下ろし、髪の毛が1本1本細部にわたるまで、いかに丹念に作られているか、よく見てください。衣服や体の他の部分も見てください。頭頂部の金属でできたデリケートな髪型は、その作業に、オーギュスト・バルソルディのパリの工房で、何週間も余分に時間がかかったに相違ありません。
あの偉大な彫刻家は、女神の頭のてっぺんを見る者は“誰もいない”のがわかっていながら、そのために数週間余分に費やしたのです。
解説
「報酬がなくてもやりたい」。そう思うくらい好きな仕事に巡り合えることは、万人の夢だ。しかし、皆がそうした幸運に恵まれるわけではない。ほとんどの人は、仕事にだんだん飽きてきて、全力を尽くさないようになる。
だが、小さなミスを黙殺したり、いい加減に済ませたりしていると、いずれ自分の成長を妨げるような大きな問題に発展する。何事も全力投球することが肝心だ。
そうした人生の不滅のルールの恰好の例が、自由の女神のエピソードである。
女神像は1886年に公開された。1886年といえば、まだ飛行機はない時代だ。彫刻家のバルソルディは、像を上から眺めるのはカモメくらいであること、そして、髪の毛を1本1本丹念に仕上げたりしなくても、誰にもわからないことは承知の上だった。にもかかわらず、この巨匠は手を抜くことをしなかったのである。