あなたは繰りかえして読む本を何冊ぐらい持っているだろうか。それはどんな本だろうか。それがわかれば、あなたがどんな人かよくわかる。
解説
世の中に「古典」と呼ばれる本がある。何度も読み返され、時代を経る中で残った本のことだ。
例えばシェイクスピアは、彼が生きていた時代においては、比較的人気のある劇作家の1人に過ぎなかった。ところがそれから200~300年経つと、断然抜きん出た存在になっているのである。
イギリス人は、何百年も舞台でシェイクスピアを見てきた。もちろん他の作者のものも上演されていたが、時が経つにつれ、彼だけは全く別物だということが次第に明らかになってきたのだ。
それは、古典が作られるプロセスをまざまざと示している。時間をかけて、繰り返し上演され、読まれることで、古典となってきたのである。この繰り返しの間に、まさに繰り返すというそのことによって、イギリス人の劇趣味が発達した。
個人の中に、ある本が古典として確立するまでの経過も同じである。古典が形成される秘密は「繰り返す」、しかも「時間の間隔を置いて繰り返す」ということにある。
この繰り返しに耐える本や作者に巡り合ったら、相当に大きな幸福と言ってもよいのではないか。つまり、そういう人は、その人自身の「私の古典」を発見したことになるのだから。