「イカロスの翼症候群」 ―― 。頭が切れ、意欲もあり、力関係にも敏感な人間が、一時は急上昇を見せながら、突如として判断を誤り、無謀な行動に出る現象だ。
解説
なぜ多くの人は、権力を手にした途端、驚くような愚行に走ってしまうのか?
シリコンバレーであれ、ハリウッドであれ、憧れの世界には、頭脳に優れ、意欲あふれる人材が集まり、トップの座を賭けてしのぎを削り合う。成功を手にするのは一握りの人間だけだ。
この種の競争を「ウイナー・テイクス・オール市場」(一人勝ち市場)と呼ぶ。その競争は熾烈で、参加者は「ウイナー・ウオンツ・オール」(一人占め)という考え方を抱くようになる。すなわち、スター・プレーヤーはすべてを欲しがるのだ。
彼らがこうした考え方に傾く理由は、いくつかある。
第1に、一人勝ち市場で競う人々は極めて好戦的で、リスクに物怖じしない人間に変わっていく。
また、彼らはウイナー・ウオンツ・オールの心理ゆえに、「のし上がる=凡人と違う行動をする」と考える。そして、成功への裏道を見つけるといったルール破りをする。だがリスクを好み、ルールを軽んじていると、転倒の危険は大きくなる。
さらに、頂上に上り詰めると、ふんだんに使える経費や社用ジェット機での移動など、権力ゆえの役得を味わうことになる。そうした数々の悦楽は、人格まで変えてしまいかねない。
これに対し、トップに上り詰めてから、その地位に長く座っている人たちに共通するのは、優れたバランス感覚と、高い自己認識力を備えていることだ。彼らは、心理と行動の両面で節度を失わないように、普通の生活を習慣づけている。