鉄道会社は自社の事業を、輸送事業ではなく、鉄道事業と考えたために、顧客をほかへ追いやってしまったのである。事業の定義を誤った理由は、輸送を目的と考えず、鉄道を目的と考えたことにある。顧客中心ではなく、製品中心に考えてしまったのだ。(中略)
輸送産業としてなら、鉄道にもまだまだ成長できるチャンスがある。鉄道による輸送だけに限定することはないからだ。
解説
ハーバード・ビジネス・スクールのセオドア・レビット教授は説く。
「(ある産業の)成長が脅かされたり、鈍ったり、止まってしまったりする原因は、市場の飽和にあるのではない。経営に失敗したからである」
こうした失敗例の1つが、鉄道だ。鉄道が衰退したのは、旅客と貨物輸送の需要が減ったためではない。また、鉄道以外の手段(自動車、トラック、航空機など)に顧客を奪われたからでもない。鉄道会社自体が、そうした需要を満たすことを放棄したからだ。そのことを具体的に説明したのが、上記の言葉である。
また、ハリウッドの映画会社が危機に陥ったのは、テレビのせいではない。鉄道会社と同様に、事業の定義を誤ったからだ。自らをエンタテインメント産業と考えるべきだったのに、映画を制作する産業だと考えてしまったのである。
テレビが出現した時、ハリウッドはそれを自分たちのチャンス、すなわちエンタテインメント産業を飛躍させてくれるチャンスとして歓迎すべきだったのに、これを拒否してしまった。