世間とは個人個人を結ぶ関係の環であり、会則や定款はないが、個人個人を強固な絆で結び付けている。

解説

 「世間」には、形をもつものと形をもたないものがある。「形をもつ世間」とは、同窓会や会社、政党の派閥、スポーツクラブなどであり、「形をもたない世間」とは、隣近所や、年賀状を交換する人などの関係を指す。本書がいう世間とは、主として形をもたない世間のことである。
 多くの日本人が属している世間は、比較的狭い。彼らにとって「人類」などという観念は遠いものにすぎず、実感をもって仲間と考えているのは自分の世間の中の人だけだ。
 例えば、団体旅行の場合、小さな世間がそこにはできていて、列車の中で宴会が始まれば、その世間に属さない人の迷惑などはまずかえりみられない。自分たちの世間の利害が何よりも優先される。このように世間は排他的である。
 世間については、他にも注目すべきことがある。
 例えば、政治家や財界人などが何らかの嫌疑をかけられた時、「自分は無実だが、世間を騒がせたことについては謝罪したい」と語ることがある。この言葉を英語やドイツ語などに訳すことは不可能だ。西欧人なら、自分が無実であれば最後まで闘うことになるだろう。ところが日本人の場合、世間を騒がせたことについて謝罪する。
 このようなことは、世間を社会と考えている限り理解できない。世間は社会ではなく、自分が加わっている小さな人間関係の環なのだ。自分は無罪だが、疑われたというだけで、自分が一員である環としての世間の人々に迷惑がかかることを恐れて謝罪するのである。
 日本人は自分の名誉より、世間の名誉の方を大事にしているのだ。

編集部のコメント

 世間 ―― 。この言葉は日本人にとって、とてもなじみ深いものです。「世間は広い(狭い)」「そんなことでは世間に通用しない」などと、口にする方も多いでしょう。
 ですが、その言葉の意味を正しく捉えている人は、どのくらいおられるでしょうか?
 
 西欧の「社会」とは少し違う、日本ならではの枠組みである「世間」。この本質を解き明かしたのが、『「世間」とは何か』です。1995年に講談社現代新書の1冊として刊行され、2024年9月現在、40刷を超えるロングセラーとして書店の棚に並び続けています。

 著者の阿部謹也氏はドイツ中世史の研究者で、元一橋大学の学長です。『ハーメルンの笛吹き男』(筑摩書房)や『中世を旅する人びと』(平凡社)などの著者としてご存じの方も多いかもしれません。
 氏はまた、日本文化論の分野でも業績を残しており、『「世間」とは何か』の他にも『「世間」論序説』(講談社)や『学問と「世間」』(岩波書房)など、「世間」をテーマとする本も多く発表しています。

 日本人は誰もが「世間」を常に意識しながら生きています。そのため、ビジネスパーソンが世間の意味や構造を理解しておくことは、仕事やプライベートでの自身の言動をより良くしていく上で大いに助けとなるでしょう。『「世間」とは何か』は、日本社会を知るための教養書として、一読しておきたい名著です。

2015年12月号掲載

「世間」とは何か

「そんなことでは世間に通用しない」「渡る世間に鬼はなし」などと、私たちは普段何気なく“世間”を口にする。だが、言葉の意味を正しく捉えている人は少ない。世間とは何か、社会とどう違うのか、長い歴史の中でどう捉えられてきたのか。西洋の社会と個人を探究してきた歴史家が、世間の本質を解き明かす。日本社会の独特な構造を知る上で、参考になる1冊だ。

著 者:阿部謹也 出版社:講談社(講談社現代新書) 発行日:1995年7月
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