「ビジネスはアートであり、数学のように論理だけで唯一絶対の正解を導くことができない」
解説
かつて、ソニーは常に奇天烈なことに挑んでいた。失敗も多いが、そんな姿勢に魅力を感じるファンがプレミアム価格を払うため、全体では経済的に辻褄が合う ―― こうしたモデルを、同社は取っていた。
ところがある時、ソニーはEVA(経済的付加価値)という指標を導入した。これは、ある事業やプロジェクトが資本コストを超えて投資家にもたらす付加価値を測定する指標である。
一般的な理論としては、EVA導入は正しい選択かもしれない。だが、ソニーの場合は大きな問題があった。というのも、大半が失敗に終わる奇天烈なプロジェクトは、EVAで判断すると「中止した方がよい」という結論になってしまうからだ。
失敗する可能性の高いプロジェクトを中止すれば、当然、短期的には全体の業績は良くなる。だがその結果、常に新しいことに挑戦する同社の企業イメージが薄れ、熱烈なファンが離れてしまった。これが、その後の苦境を招く一因となった。
この例のように、ビジネスは数字や論理だけで正解を導くことができない。単純に部分最適の合理性ではなく、大きなコンテクストの中で善し悪しを捉えねばならない。それが、上掲した「ビジネスはアート」のゆえんだ。