私はアリストテレースが『ニコマコスの倫理学』で何かの折に表明した「賢者は快楽を求めず、苦痛なきを求める」という命題が、およそ処世哲学の最高原則だと考える。
解説
アリストテレースの命題は、享楽や幸福が「消極的な性質」のものであるのに対し、苦痛は「積極的な性質」のものだという点に基づいている。
例えば、全身は健康だが、どこかに痛い個所があると、意識は絶えず痛みの個所に向けられ、全身の健康という生命の喜びは感じられなくなる。
また、仕事や生活など万事が思い通りだが、ただ1つ思い通りにいかないことがある時、このことが絶えず頭に浮かび、それ以外の思い通りになっている事柄はほとんど考えない。
こうした事実があるから、アリストテレースは享楽・快楽を求めるのではなく、人生の災厄を逃れることに尽力すべきだと教えるのである。