上質な商品やサービスを「上質でしかも手軽」へ進化させようとすると、行き着く先は不毛地帯である。
解説
上質さと手軽さを組み合わせ、ともに極めた商品を作れば、向かうところ敵なしだろう。
だが、ジャーナリストのケビン・メイニー氏は、それは幻影にすぎないと語る。
例えば、高級ファッションブランドのCOACH。同社は1970年代に高級ハンドバッグを武器に地歩を固め、ルイ・ヴィトンやエルメスと並び称されるほどのラグジュアリー・ブランドとなった。
ところが、90年代末になると、「身近なラグジュアリー」とでも呼ぶべきカテゴリーを考案し、マスマーケット向けに洒落たバッグを提供する戦略を打ち出した。高級ブランドとして大成功を収めていながら、それに飽き足らず、上質さと手軽さの二兎を追ったのだ。
上質さは、オーラや個性に大きく支えられる。だからこそ、裕福な人々はエルメスのバッグを2万ドルで買い求める。
他方、手軽さはオーラや個性を打ち消す役割を果たす。手軽になればなるほど、オーラと魅力は損なわれていき、そのアイテムが持ち主を引き立てる力は弱まっていくのだ。
COACHは、高級であると同時に手の届く存在であろうとした戦略がアダとなり、そのブランドを色褪せさせてしまった。上質さと手軽さの両方を追い求めた結果、どちらも中途半端になり、2008年には窮状に陥った。
もはやラグジュアリー・ブランドとはみなされず、かといってマスマーケットに完全に浸透したわけでもない。愛されもせず、必要ともされない存在になったのだ。
上質な商品やサービスを「上質でしかも手軽」へ進化させようとすると、必ず失敗する。そして、逆もまたしかり、である。
マクドナルドは以前、テーブルクロスやウェイターを用意したくつろげるレストランを開店したが、失敗に終わっている。人々がマクドナルドを訪れるのは手軽だからであり、この利点を活かしたまま高級レストランに変貌するのは不可能なのだ。