新規市場を創造するには、顧客ではない層に目を向けて、彼らが自業界の製品やサービスを利用しない理由を熱心に探る必要がある。業界の拡大を妨げる問題点や制約が何であるかを最もよく見通せているのは、顧客ではなく非顧客層なのである。
解説
多くのマネジャーには、「レッド・オーシャンの罠」という思い込みがある。それは、レッド・オーシャン ―― 多数の企業が血みどろのシェア獲得競争を展開する市場にマネジャーをつなぎ止め、彼らの市場創造の取り組みを妨げるものだ。
一例が、「市場創造戦略と顧客志向を混同する」という罠である。これにはまると、「顧客は王様である」という考え方を叩き込まれたマネジャーは、既存顧客を満足させようとする。しかし、この手法で新規市場を創造できる可能性は小さい。
例えば、ソニーは2006年、書籍関連の市場を開拓しようと、電子書籍リーダー「PRS」を発売した。それは既存顧客の「製品が大きくディスプレーの品質が低い」という不満を解消する商品として登場し、高い顧客満足度を得た。にもかかわらず、アマゾンのキンドルに敗れた。なぜか?
非顧客層が電子書籍リーダーを利用しない主な理由は、製品の質よりも、「品揃えの乏しさ」にあったからだ。アマゾンはこれを踏まえ、キンドルの投入時にPRSの4倍超もの電子書籍を用意した。すると非顧客層も飛びつき、市場は拡大した。